日本のM&A市場:2021年

MARRの「M&A回顧(2021年1-12月の日本企業のM&A動向)」「上場企業の売却(カーブアウト系)動向(3)」公表された。

詳細は直接確認いただきたいが、件数は4280件で14.7%増、2年ぶりに最多更新、金額は16.4兆円で11.7%増とのこと。内訳は、IN-INが3337件で13.3%増、過去最多、金額は3.0兆円で8.5%減。IN-OUTが625件で12.2%増、金額は7.0兆円で59.1%増。OUT-INが318件で38.9%増、過去最多。金額は6.3兆円で8.9%減。

2020年はCOVID-19の感染拡大の影響で減少したが、2012年以降2019年まで8年連続で増加していたため、2年ぶりの戻った感がある。金額16兆4844億円のうち、クロスボーダー(IN-OUT、OUT-IN)案件が全体の8割超を占めたが、これは、コメンタリー「M&A市場の動向」で触れたように、世界的に買手に多額に資金が集まっている証左ともいえる。

上場企業の案件を見ると、カーブアウトの件数が409件で2.8%増、金額が5兆2390億円で引き続き高水準を維持していること。また、TOB件数が71件で24.6%増(金額が2兆4652億円で2.1%減)、MBOによる非上場化は19件で1.7倍増、親子上場解消案件が11件であったこと。そして、敵対的TOBが8件で最多、TOB全体の1割を超えたこと(TOBの不成立案件が7件、うち敵対的TOBが4件、MBOによる非上場化案件が3件)。

買収案件が増加傾向であることはさておき、カーブアウト、TOBによる非公開化の増加は、時代を反映する。

私見であるが、カーブアウトも非公開化も、株主がキャンペーンが増加した際に増加する。

ここ20年間を見ると、カーズアウトが急増したのは2008年の490件。TOBが急増したのは2007年の104件。2005年前後、村上ファンドやスティールパートナーズなどのアクティビストによるキャンペーンが増加した。企業価値を向上させない事業は売却すべきというキャンペーンや余剰現預金は株主に還元すべきというキャンペーンだ。これに業を煮やした経営者がカーブアウトや究極の買収防衛策であるMBOを選択した。MBOについては、2005年に会社法が施行され、容易になり、2007年に「MBO指針」が公表され、プラクティスも固まったこともこれを後押しした。1年中、TOBを行っており、眠れなかった日々を思い出す。

リーマンショックがあり、カーブアウトもTOBも激減した。しかし、2014年前後以降、増加傾向に転じる。これは、コメンタリー「アクティビズムの動向」でも触れたように、2014年前後に「コーポレートガバナンスコード」「スチュワードシップコード」が制定され、アクティビストによるキャンペーンが増加したことが少なからず影響しているように思われる。買収防衛アドバイザーの業務は2007年前後に一世を風靡したが、近年も花盛りだ。カーブアウトについては、2020年に「事業再編実務指針」が、MBOや親会社による上場子会社の買収になどに代表される構造的な利益相反を伴うM&Aについては、2019年に「M&A指針」が、ぞれぞれ公表され、プラクティスも固まったこともこれを後押しした。非公開化については、2022年に予定されている証券取引所の市場構造の見直しの影響も大きい。

注目すべきは、4280件のうち、ベンチャー企業へのM&Aが1693件となり、39.6%を占め、OUT-IN、OUT-INで1438件、84.9%を占め、投資が加速していること(金額も9162億円で2.6倍に拡大)。これは、コメンタリー「M&A市場の動向」で触れたように、M&A戦略が変化している証左ともいえる。スタートアップ企業に特化したアドバイザーが急増しているのも頷ける。

フィデューシャリーアドバイザーズ株式会社 吉村一男

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