アクティビズムの動向

わが国も近年、米国と同様、上場企業の株主構造が変化し、アセットオーナーから資金運用を受託したアクティビストの保有が確認されている企業が増加しており、上場企業に対して、アクティビストがキャンペーンするケースが増加している。

世界の動向はどうか。

Lazardの調査によると「Quarterly Review of Shareholder Activism – Q3 2021」によると、キャンペーン数は2018年には249件あったが、2019年は209件、2020年は184件と減少傾向。もっとも、2021年はQ3までで123件と例年よりも増加傾向。うち、米国のシェアは、2018年には57%、2019年は59%、2020年には45%、2021年はQ3までで54%と引き続き高い水準。

キャンペーンの内容としては、M&A関連が、2018年は34%だったものの、2019年は47%、2020年は40%、2021年はQ3までで45%となり、最も多い。2020年からは、ESGをテーマにしたキャンペーンがトレンドになっており、とりわけ環境および社会(E&S)の提案はより多くの支持を得ている。

一方、日本の動向はどうか。

ブリュッセル自由大学のMarco BECHT教授、ロンドン・ビジネススクールのJulian FRANKS教授、早稲田大学の宮島英昭教授、早稲田大学の鈴木一功教授の共同研究「Outsourcing Active Ownership in Japan」によると、2003年は10件、2004年は13件、2005年は15件、2006年は5件、2007年は11件あったものの、リーマンショック以降減少し、その後、2015年は10件、2016年は9件、2017年は14件、2018年は16件、2019年は11件と増加傾向。2015年から数が一定しているのは、2014年から導入されたコーポレートガバナンスコードやスチュワードシップコードの影響が大きい。

キャンペーンの内容としては、株主還元が最も多いが、近年は取締役の選解任が増加。しかし、M&A関連はまだ少ない。

このように世界も日本もアクティビストのキャンペーンが増加しているが、日本が米国や欧州と異なるのは、成功確率。上記研究(2000年から2019年)によると、米国は約66%、欧州は50%超。一方、日本は約25%。日本の経営者は、株主に「徹底抗戦」する傾向が強いという。もっとも、これはアクティビストが公開の場で企業に経営改善を要求したケースで、企業と対話(非公開)したケースでは、これより高くなり、取締役の構成では62.5%、株主還元では71.4%、企業戦略では65.2%、買収防衛策の撤廃は50%。日本の経営者は、公開の場で苦手で、非公開の場のほうが安心するのか。

株主アクティビズムは、投資期間が短いため、企業に長期的な株主価値を犠牲にして株価を引き上げるように促していると非難されることがよくある(いわゆるshort-termism)が、コメンタリー「M&A市場の動向」で触れたように、買手に多額に資金が集まっている現状では、避けることができない。

思えば、2005年からリーマンショックまでは、村上ファンドやスティールパートナーズがキャンペーンを行っていた時期であるが、企業の経営者は彼らを「グリーンメーラー」として扱ってきた感がある。「なぜうちの株式を勝手に買うのか」という声をよく聞いた。しかし、2015年以降は、世界で活躍するアクティビストがキャンペーンを行うようになってきた。上場というのは、投資家がいつでも株式を購入し、株主になり、いつでも売却できるということ。そして、その株式は価値があるが、市場では価格がつき、その価格が価値よりも高ければ評価され、安ければ評価されないこと。この至極当然のことを再認識するチャンスと捉え、将来の経営に活かすのか、かつてのように「徹底抗戦」するのか。株主と経営者の真剣勝負はこれからも続く。

フィデューシャリーアドバイザーズ株式会社 吉村一男

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