市場内買付けによる強圧性と株価

コメンタリー「市場内買付けに対する買収防衛策とTOB」で触れたとおり、最高裁判所は、敵対的買収者の市場内買付けには「強圧性」があるなどを理由に、取締役会の買収防衛策を認めた。「強圧性」とは、市場内買付けが行われると、株価が上昇し、買付けが予告なく終了すると、株価が下落し、株主は株価が下落する前に売却する圧力を受けることをいうが、本件では「強圧性」があったといえるのか。

この点、早稲田大学ビジネススクールの鈴木一功教授がMARR32号で「TOBと市場買付けの「強圧性」に関する考察~東京機械製作所の買収防衛策を題材に~」と題する記事で東京機械の株価分析を行っている。

詳細は、記事を読んで欲しいが、東京機械の株価分析の結果、東京機械の株主が、買収者であるアジアインベストメント等による株式保有比率引き上げによる経営権取得後の株価下落の可能性を織り込んで、株価が下落を始めた結果、自己の保有株式を性急に安値で売ることを余儀なくされたというエビデンスは、少なくとも確認されなかった。

たしかに、株価は様々なイベントで上下するため、買収者の市場内買付けというイベントと株価の動きの相関もしくは因果を証明することは容易ではないかもしれない。しかし、買収者の市場内買付けの「強圧性」を取締役会による買収防衛策を肯定する理由にするのであれば、「強圧性」は「理論」だけではなく、「実証」を伴う必要があるように思われる(そもそも、パッシブの投資家はTOBには応募せず、市場内買付けにも応じないため、「理論」的にも「強圧性」は生じない)。そうしなければ、市場内買付けの「強圧性」は常にあり、株主総会の承認があれば、取締役会の買収防衛策は常に認められることになってしまい、経営者が濫用しかねない。現に弁護士の間では、「これで買収防衛策は平時に不要。なぜなら、有事でも認められるから」との意見も多い。

今後の論者による議論の行方を注視したい。

フィデューシャリーアドバイザーズ株式会社 吉村一男

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