EPSのPLへの開示

本屋に行くと、『バリュエーションの理論と実務』の隣に大津広一先生の『企業価値向上のための経営指標大全』(ダイヤモンド社)を見ることが多い。この本は、企業価値をブレイクダウンした50の経営指標の説明と企業の31のケースが丁寧に書かれている。主に企業の経営者を対象としていると思われるが、一般の投資家にとっても考えさせられる内容となっている。

上場企業の経営者は、WACC、FCF、成長率から株式価値を算定し、株価と比較した上で、M&Aを行うが、一般の投資家は、PERやPBRから割安な銘柄を見つけ、投資を行うことが多い。そのPERやPBRは、本書でも取り上げられてる。

PERは、株式時価総額/純利益=株価/EPSであり、株価はPER×EPSといえるが、同業他社であればPERは同水準であると仮定すると「株価を成長させる唯一の手段はEPSを成長させること」になる(368頁)。そのEPSは、純利益/期中発行済株式数-平均自己株式数であるが、ROE=EPS÷BPS×100であるため、BPSとROEに分解することができる。例えば、株価が1,000円で、PBRが1倍、PERが10倍、ROEが8%の場合には、BPSが株価と同一の1,000円、EPSが80円となる。

では、PERが23倍で、PBR0.3倍の銘柄があり、株価は1株当たり690円とする。BPSは、株価690円÷PBR0.3倍で約2,300円。EPSは、株価690円÷PER23倍で約30円。ROEは、EPS30円÷BPS2,300円×100で1.3%。PBRでみるとたしかに割安だが、EPS(30円)はBPS(2,300円)よりも極端に小さく、ROEも僅か1.3%しかない。この銘柄は先日MBOを公表したある会社のTOB公表前の指標である。

米国企業は、決算発表の際、EPSが必ず語られる。しかし、日本企業は必ずしもそうではない。これは日本基準では注記で開示するのに対して、米国基準やIFRSではPL上で開示することが原因の一つかもしれない。EPSはBPS×ROE。その成長率と配当利回りは、株主資本コストと比較されるべき指標ともいえる。EPSのPLへの開示義務が急がれる。

フィデューシャリーアドバイザーズ株式会社 吉村一男

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