相場サイクルにおける株価の動き

コメンタリー「M&A市場の動向」で触れたように、買手に多額に資金が集まっているが、その背景には言うまでもなく、「金余り」。中央銀行が金融緩和を行い、世の中のお金の量が増え、設備投資や株式市場に資金が流入している。このような、いわゆる「金融相場」では、バリュエーションでお馴染みのマーケット・リスク・プレミアム(MRP)が下がる。

MRPは、『バリュエーションの理論と実務』でも触れているように、市場に投資することによって、国債に投資するよりも、どれくらいリターンが上がるか、すなわち、市場リスクによって生じるリターン。株価は、PER×1株あたり利益(EPS)と考えることができるため、MRPが下がれば、PERは上がる可能性が高い。なぜなら、MRPが下がると、市場でリターンを得たいというハードルが下がるため、個別株式の投資しようと考えるからである。実際、MRPは、2018年や2019年に7-8%であったものの、2020年以降は5-6%に下がっているが、東証一部のPERは、2018年や2019年に15-20倍であったものの、2020年以降急騰し、2021年は20-25倍となっている。

ここで注意しなければならないのが、株価は、PER×1株あたり利益(EPS)と考えることができるため、たとえ利益が増加しなかったとしても、PERが上がれば、株価が上がるということである。実際、東証一部の当期利益(東証一部の時価総額÷PERにて逆算)は、2018年や2019年に40兆円前後であったものの、2020年以降は30兆円前後に下がっているが、東証一部の時価総額は、2018年や2019年に600兆円前後であったものの、2020年以降急騰し、2021年は700兆円前後となっている。「不景気の株高」といわれる証左である。

しかし、その相場も転換期に来ているかもしれない。なぜなら、中央銀行が金融引き締めを検討しているからである。実際、アメリカの米連邦準備理事会(FRB)が利上げを示唆していることは度々ニュースで報じられている。このような、いわゆる「逆金融相場」、そして、金融引き締めにより景気が下降し、企業業績が悪化する「逆業績相場」では、MRPは上がり、PERが下がる可能性が高い。そして、たとえ利益が増加したとしても、PERが下がれば、株価が下がる可能性が高い。「逆金融相場」では、金利上昇でも業績に影響の出にくい無借金企業などバランスシートが健全な企業、「逆業績相場」では、景気と業績の連動性が低い医薬品やインフラ、生活必需品といったディフェンシブセクター、金融セクターのように高金利が収益増に繋がるセクターに注目が集まる。

このように考えると、株式を保有している投資家は悲観的になりがちだが、株式の買収を検討している投資家にとっては、チャンスかもしれない。なぜなら、理論株価が高い企業を安く買収できるかもしれないからである。株価は、理論株価どおりには動かず、相場サイクルに左右される。しかし、理論株価を算定し、これを現実の株価と比べるバリュエーションは、相場サイクルに関係なく、重要である。

フィデューシャリーアドバイザーズ株式会社 吉村一男

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