東京機械事件で最高裁は、2007年のブルドックソース事件の最高裁決定を踏襲し、敵対的買収に伴い企業価値のき損が生じるか否かの判断枠組みは、「株主自身」により判断されるべきとした(最決令和3年11月18日)。理由は、法律の専門家である裁判所が、企業価値がき損するか否かの判断をするのは困難であるからである。ただし、「判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵がない限り」という留保を付して、当該判断の形成過程には司法判断が及ぶとした。すなわち、原則として、株主の判断を尊重するものの、裁判所が介入することもあり得る。これで2005年のニッポン放送事件の東京高裁決定のように、裁判所が介入することも正当化される。
ここで問題なのが、株主は企業価値のき損が生じるか否かを判断できるかである。
敵対的買収の提案が、買収対象会社の企業価値を向上させ、一般株主が享受する利益(買収対価)も高い提案であれば、何ら問題はない。しかし現実には、買収対象会社の企業価値を向上させないが、買収対価も高い提案もあれば、買収対象会社の企業価値を向上させるが、買収対価は低い提案もあり得る。むしろ、このような提案のほうが多いかもしれない。
これは、競合的買収のケースでも生じ得る。
M&A指針では、「対象会社の企業価値の向上により資する買収提案と、一般株主が享受する利益(買収対価)がより大きな買収提案とは、通常は一致するものと考えられるところ、例外的にこれらが一致せず、一般株主が享受する利益がより大きな買収提案が他に存在する中で、対象会社の企業価値の向上により資すると判断する買収提案に賛同する場合には、対象会社の取締役会および特別委員会は、その判断の合理性について十分な説明責任を果たすことが望ましい」とある(3.4.4)。
最強の買収防衛策は、いつ何時、競合的買収の提案を受けても、企業価値の観点から自らの経営を正当化できる平時の説明責任であるように思われる。
株主の判断は後からついてくる。
フィデューシャリーアドバイザーズ株式会社 吉村一男
Commentary
最強の買収防衛策
東京機械事件で最高裁は、2007年のブルドックソース事件の最高裁決定を踏襲し、敵対的買収に伴い企業価値のき損が生じるか否かの判断枠組みは、「株主自身」により判断されるべきとした(最決令和3年11月18日)。理由は、法律の専門家である裁判所が、企業価値がき損するか否かの判断をするのは困難であるからである。ただし、「判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵がない限り」という留保を付して、当該判断の形成過程には司法判断が及ぶとした。すなわち、原則として、株主の判断を尊重するものの、裁判所が介入することもあり得る。これで2005年のニッポン放送事件の東京高裁決定のように、裁判所が介入することも正当化される。
ここで問題なのが、株主は企業価値のき損が生じるか否かを判断できるかである。
敵対的買収の提案が、買収対象会社の企業価値を向上させ、一般株主が享受する利益(買収対価)も高い提案であれば、何ら問題はない。しかし現実には、買収対象会社の企業価値を向上させないが、買収対価も高い提案もあれば、買収対象会社の企業価値を向上させるが、買収対価は低い提案もあり得る。むしろ、このような提案のほうが多いかもしれない。
これは、競合的買収のケースでも生じ得る。
M&A指針では、「対象会社の企業価値の向上により資する買収提案と、一般株主が享受する利益(買収対価)がより大きな買収提案とは、通常は一致するものと考えられるところ、例外的にこれらが一致せず、一般株主が享受する利益がより大きな買収提案が他に存在する中で、対象会社の企業価値の向上により資すると判断する買収提案に賛同する場合には、対象会社の取締役会および特別委員会は、その判断の合理性について十分な説明責任を果たすことが望ましい」とある(3.4.4)。
最強の買収防衛策は、いつ何時、競合的買収の提案を受けても、企業価値の観点から自らの経営を正当化できる平時の説明責任であるように思われる。
株主の判断は後からついてくる。
フィデューシャリーアドバイザーズ株式会社 吉村一男
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