金利上昇下における成長企業のバリュエーション

コメンタリー「相場サイクルにおける株価の動き」で触れたように、相場は、金融引き締めによる、いわゆる「逆業績相場」となってきたが、これに最も影響を受けるのは、SaaS企業のような成長企業の株価といわれている。

これは、DCFモデルを考えると分かりやすい。

DCFモデルは、予測期間のキャッシュフローの現在価値と継続期間のキャッシュフローの現在価値(継続価値)を合算したものを事業価値とする。『バリュエーションの理論と実務』で触れているように、予測期間は「業績が安定した状態まで入るまでの期間」「ROIC=WACCになる状態までの期間」といわれている。なぜなら、そうしなければ、永久成長率法による継続価値の感応度が大きくなるからである。したがって、安定企業の予測期間は短期、成長企業の予測期間は長期とすべきといわれている。

もっとも、SaaS企業のような成長企業は、安定企業と異なり、予想期間は投資フェーズであることが多いため、キャッシュ・フローが少なく、継続期間のキャッシュフローに依存している。そのキャッシュフローは、WACCで割り引くが、コメンタリー「相場サイクルにおける株価の動き」で触れたように、金利が上昇すれば、MRPが上がり、これが高くなり、現在価値が低くなる。当然、継続期間のキャッシュフローに依存している成長企業は、その影響を受けやすい。

株価は、理論株価どおりには動かず、相場サイクルに左右されるが、これがSaaS企業の株価が下がる原因の一つと思われる。成長株への投資は、M&Aと同様、長期で考えたほうがいいかもしれない。

フィデューシャリーアドバイザーズ株式会社 吉村一男

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