弊社吉村が共著した『バリュエーションの理論と実務』(日本経済新聞出版)が発売されました

2019年、経済産業省より、公正なM&Aの在り方に関する指針(M&A指針)が公表され、親会社などの支配株主による子会社の買収や支配株主である経営者が自社を買収するMBOなど、買収対象会社の利益と支配株主の利益が一致し、買収対象会社と株主の利益が一致しないM&A(構造的な利益相反の問題を伴うM&A)において、「取引プロセス」を充実させる動きが目立ちます。実務家の調べによると、M&A指針公表後、買収対象会社の取締役会が特別委員会を設置し、第三者評価機関からバリュエーションを取得するケースが増加しています。

一方、わが国も米国と同様、近年、アクティビストの保有が確認されている企業が増加しており、上場企業のM&Aに対して、アクティビストが介入するケースが増加しています。したがって、たとえ「取引プロセス」を充実させていたとしても、その結果合意された「取引価格」に買収対象会社の価値に関する十分な情報が反映されていないとして、クレームの対象となるケースが増加するものと思われます。

その主な原因は、第三者評価機関のバリュエーションです。

本書は、その場限りのアドホック(ad hoc)なバリュエーションや理論の一部をつまみ食い(cherry picking)したバリュエーションが横行しているわが国の現状に鑑み、これに問題意識をもっている、ファイナンスや会社法が専門の研究者、バリュエーションの実務家、大手法律事務所の弁護士が集い、実証研究や欧米の先行研究を通して、バリュエーション理論の議論を重ね、これを書籍化したものです。

<執筆者>

明石正道(プルータスコンサルティングディレクター)、砂川信幸(京都大学ビジネススクール教授)、石綿学(森濱田松本法律事務所パートナー弁護士)、伊藤彰敏(一橋大学ビジネススクール教授) 、井上光太郎(東京工業大学工学院教授) 、大村敬一(早稲田大学名誉教授)、木村友二(プルータスコンサルティングマネジャー) 、鈴木一功(早稲田大学ビジネススクール教授)、田中亘(東京大学社会科学研究科教授) 、鶴沢真(昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員)、奈良沙織(明治大学商学部教授)、野間幹晴(一橋大学ビジネススクール教授) 、吉村一男(フィデューシャリーアドバイザーズCEO・早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター招聘研究員)

<内容>

第I部 日本のバリュエーションをめぐる課題
第1章 M&Aやファイナンスにおけるバリュエーションの実務と課題 第2章 会社裁判におけるバリュエーションの課題

第II部 M&Aにおけるバリュエーションの実務
第3章 M&Aのプロセスとバリュエーション 第4章 わが国のM&Aにおけるバリュエーションの実務

第III部 会社裁判における問題点
第5章 日本の会社裁判におけるバリュエーションに関する法的論点 第6章 米国・デラウェア州の会社裁判におけるバリュエーションの争点

第IV部 バリュエーションの理論:インカム・アプローチ関連
第7章 インカム・アプローチの基礎 第8章 特殊なバリュエーションに関する理論 第9章 フリー・キャッシュフローの現在価値合計に対する加減算項目 第10章 ディスカウントとプレミアム 第11章 支配プレミアムとシナジー効果の理論的考察

第V部 バリュエーションの理論:インカム・アプローチ以外の手法
第12章 マーケットアプローチ 第13章 コスト・アプローチ 第14章 特殊なデリバティブのバリュエーション:新株予約権を活用したファイナンスの課題

弊社の吉村は、「取引価格」の是非が裁判で争われ、裁判所が第三者評価機関のバリュエーションを鑑定(アプレイザル)し、「公正価値」を決定する米国デラウェア州におけるアプレイザル訴訟の動向、当該訴訟におけるバリュエーションの争点、米国における非流動性ディスカウントの実証研究、米国におけるプレミアムやディスカウントの考え方などを紹介しています。

このように本書は、M&Aやファイナンスにおけるバリュエーションのほか、裁判におけるバリュエーションにも触れていますので、M&Aやファイナンスでバリュエーションを行う専門家(証券会社、銀行、ファイナンシャルアドバイザリー会社)、専門家にバリュエーションを依頼する会社のM&A担当者のほか、「取引価格」の裁判に関与する弁護士や裁判官にとっても参考になると思います。多くの皆さまにご高覧いただき、後日、ご批判、ご指摘をいただければ幸いです。

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