市場内買付けに対する買収防衛策とTOB

コラム「最強の買収防衛策」で触れたとおり、東京機械事件で最高裁は、取締役会の買収防衛策は原則として、株主の判断を尊重するものの、裁判所が介入することもあり得ることを確認したが、裁判所が介入する理由として、敵対的買収者の市場内買付けによる「強圧性」を挙げた。

「強圧性」とは、市場内買付けが行われると、株価が上昇し、買付けが予告なく終了すると、株価が下落し、株主は株価が下落する前に売却する圧力を受けることをいい、これは議論があるものの、本決定によって、取締役会の買収防衛策は、たとえ平時に導入しなかったとしても、有事に導入すれば認められる可能性が高まった。

諸外国を見ると、欧州は、買収者に対して、市場内外の取引を問わず概ね30%以上の支配権を取得する場合にはTOBする義務、全部買付義務、追加応募義務を課し、取締役会に対して、中立義務を課し、株主総会の承認のない買収防衛策を禁止しているが、株主に対して、セル・アウト権を認めている。

また、米国は、買収者の株式取得や取締役会の買収防衛策を認めるものの、株主に対して、ディスカバリー、クラス・アクション、差止め等の訴訟を認め、判例を通じて形成される支配株主や取締役の信認義務違反を具体化した審査基準(利益相反法理)が TOB 規制の代替をしている。

しかし、わが国は、買収者に対して、市場外取引の一部に全部買付義務を課し、バイ・アウト権を認める一方、市場内取引には TOB が課されておらず、株主総会の承認がある買収防衛策は尊重されているものの、取締役会に対して、中立義務が課されているか必ずしも明らかではない。株主に対して、セル・アウト権も認められておらず、ディスカバリーがないため、訴訟の実効性も疑わしい。中途半端な状況と言わざるを得ない。

(詳細は、拙稿「ヨーロッパのM&A規制とわが国のM&A規制-TOB規制を中心に-」企業会計64巻5号(2012年)101頁参照)

本決定は、「株主保護を考えると、欧州のようにTOBをすべき、しかし、それも強制できない。そうであれば、米国のように市場内で買い増しても構わないが、株主の支持があれば、裁判所がその買収を否決する可能性がある。だから、支配権を取得したかったら、TOBをしなさい」というメッセージとも解釈できる。

今後の論者による議論の行方を注視したい。

フィデューシャリーアドバイザーズ株式会社 吉村一男

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