M&A市場の動向

2021年も残りわずかとなったが、MARRの調べによると、11月末時点の日本のM&A市場は取引総額が15兆6,773億円、案件数が3,875件となった。取引総額が前年同期比11.6%、案件数が前年同期比15.3%、ぞれぞれ増加した。

一方、世界のM&A市場はどうか。

ボストン コンサルティング グループ(BCG)とパーダーボルン大学のSönke Sievers教授との共同調査「The 2021 M&A Report: Mastering the Art of Breaking Up」が公表されている。

2021年上半期までの調査であるが、この調査によると、2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、取引総額、案件数ともに減少したものの、2021年上半期は、取引総額が前年同期比136%増加、案件数も前年同期比で32%増加し、北米では上半期としては過去最高を記録し、これは2007年や2001年に匹敵する過去10年間で最高の水準であり、この傾向は下半期も維持されるとのこと。

その背景には、プライベートエクイティ(PE)と特別買収目的会社(SPAC)の存在がある。すなわち、買手に多額に資金が集まっているといえる。

もっとも、それだけではなく、企業のM&A戦略に変化の兆しがあるともいえる。

なぜなら、PwCの24th Annual Global CEO Surveyによると、回答を寄せたCEOは概ね、現在のポートフォリオのどこに価値創造の機会が存在するのか明確な展望を持ち、成長の加速、規模の拡大、自社を変革するためのデジタル化を目的としたM&A戦略に焦点を絞り込んでいる。すなわち、買手がコストシナジーよりも収益シナジーを重視するため、より多額の資金を投資している。これはGoogleの戦略を見れば分かる。彼らは20年間でキーホール、ユーチューブ、アンドロイド等、200を超えるスタートアップを買収することによって、規模拡大と同時に、「成長」も実現している。2021年のpringの買収(推定200億円)も記憶に新しい。

このようにPE、SPAC、そして企業といった買手がテクノロジーを有する非上場のスタートアップを買収するケースは今後も増加すると思われる。一方、日本では、市場がシュリンクしている業界が多いため、2021年に話題となった新生銀行や関西スーパーのケースに代表されるとおり、「成長」は期待できないものの、規模拡大のため、競合企業を買収するケースは引き続き増加すると思われる。また、コロナの影響で業績が下降し、また、「事業再編実務指針」が2020年に策定され、定期的に事業ポートフォリオに関する基本方針を見直し、取締役会が事業ポートフォリオマネジメントの実施状況の監督を行うべきとの提言を行ったため、カーブアウトも引き続き増加するものと思われる。さらに、コーポレートガバナンスコードが2021年に改訂され、支配株主を有する上場企業に少数株主保護のための利益相反管理措置(独立社外取締役の3分の1以上の選任または特別委員会の設置(補充原則4-8③))が求められ、アクティビストによる「親子上場」に否定的なキャンペーンも増加しており、また、コロナの影響で業績が下降し、上場コストが重しになっているため、親会社による子会社の完全買収やMBOも引き続き増加すると思われる。気になるのが、アンダーバリュー企業の買収である。東京機械事件の最高裁決定はM&A市場にどう影響するだろうか。

M&Aは企業価値(ROIC、成長率、WACC)を向上させる手段。今後はその使い方が益々試される。

フィデューシャリーアドバイザーズ株式会社 吉村一男

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