部分買付の問題

SBIによる新生銀行株式に対する敵対的TOBが成立した。2021年の敵対的TOBは既に6件(成立は本件と日本製鉄の東京製綱株式に対する1件の2件)。これは過去最高となっている。

これは、TOBには証券会社が買付けの代理をしなければならないところ、かつては証券会社が「敵対的TOBは行わない」方針であったが、近年はこれをケースバイケースで行うように方針を変更したことが大きい。MARRの調べ[M&Aトピックス] (2021/01/15)によると、大和証券、SBI証券、三田証券、マネックス証券などが敵対的TOBの代理を引き受けている。

コメンタリー「最強の防衛策」コメンタリー「市場内買付けに対する買収防衛策とTOB」で触れたとおり、東京機械事件で最高裁は、取締役会の買収防衛策は原則として、株主の判断を尊重するものの、裁判所が介入することもあり得ることを確認した。したがって、新生銀行の取締役会は、SBIに徹底抗戦することができたのかもしれない。しかし、新生銀行の取締役会はそうしなかった。これは、株主の賛同を得られる見込がなく、また、SBIの買収手法が市場内買付けではなく、TOBであったからであろう。コメンタリー「日本の買収防衛法理から示唆されること」で触れたとおり、敵対的買収者が、アクティビストではなく、同業者であった場合には、企業価値の観点から自らの経営を正当化できない限り、何もできないことが明らかになったともいえる。

一方、SBIの買収手法が問題なかったかというと、議論の余地がある。なぜなら、SBIのTOBは全部買付けではなく、部分買付であったからである。

この点、早稲田大学ビジネススクールの鈴木一功教授は、2021年10月23日付のM&A Onlineで「敵対的部分買付TOB問題再考 ~SBIホールディングス vs. 新生銀行~」と題する記事でこれを指摘している。

詳細は、記事を読んで欲しいが、部分買付には2つの問題があるという。

一つは強圧性の問題、もう一つは、安価で買収できる問題である。

前者は、たとえ買収者が支配権を取得したとしても企業価値が向上しないと思う株主であったとしても、TOBが終了すれば、TOB公表前の株価に戻るため、やむを得ずTOB価格で売却してしまい、買収者が支配権を取得して企業価値が向上すると思う株主は、TOB価格で売却しないという問題である。

後者は、言うまでもなく、部分買付は全部買付よりも、買収総額が減るため(SBIのTOBには上限が付されており、SBIが買い取るのは議決権の48%の株式までで、買い増し分は新生銀行発行済株式の20%程度であるため、20%程度の株主にだけ39%の買収プレミアムを支払っている)、買収者が買収必要資金負担のハードルが下がり、支配権取得後の経営改善に対するハードルも下がるという問題である。

いずれも、企業価値を向上できない買収者のTOBが成立する可能性が高くなる。

これは、新生銀行の2021年10月21日のプレスリリースでも、以下のように触れられている。

コメンタリー「市場内買付けに対する買収防衛策とTOB」で触れたとおり、日本も敵対的買収は市場内買付けでなく、TOBを利用するケースが増加すると思われるが、日本のTOBにはこのような問題が内在する(東京機械の買収防衛策は、買収者による市場内買付けの「強圧性」を理由に否定されたが、部分買付のTOBも「強圧性」は存在する)。

近年、敵対的TOBや対抗TOBが急増しているが、日本のTOB規制もそろそろ見直す時期にきているのではないだろうか。

フィデューシャリーアドバイザーズ株式会社 吉村一男

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