委任状による議決権行使の問題

最高裁は、オーケーの関西スーパー経営統合手続きの差止め仮処分に係る許可抗告を棄却した。これで関西スーパーを巡る阪急グループとオーケーの買収合戦(競合的買収)に決着がついたといえる。しかし、問題も浮き彫りになった。これは、株主総会における議決権行使書の形式である。

裁判での争点は、ある法人株主が、株主総会前に郵送する議決権行使書で「賛成」していたが、株主総会に出席し、用紙に何も書かず投票したところ、これは「賛成」か「棄権」かという点。

株主総会の実務では、事前に議決権行使書を郵送していても、株主総会に出席すれば、事前の意思表示は消失するとしている。ある法人株主は、このルールを知らなかったという。

裁判所(大阪高裁)は、株主総会での意思表示を採用するには、「投票のルールがあらかじめ周知され、ルールを理解していることが必要」であり、「認識不足や誤解のために、意思が正確に反映されない場合にまで用紙のみで判定することは、かえって株主の意思を正確に反映させるという制度を採用した趣旨にもとる」としたうえで、ある法人株主の誤認は「やむを得ない」とし、「株主の意思(賛成)が用紙(棄権)と異なっていたと明確に認められる」と結論づけた。

「株主の意思」が重要であることは論を俟たないため、結論はやむを得ない。しかし、課題も明らかになった。それは、関西スーパーが使用していた議決権行使書。これは「議決権行使書」と「委任状」が一体となっている書面で、俗に「一体型書面」と呼ばれるが、株主がたとえ議決権行使書に「反対」と記載したとしても、委任状に何も書かなければ、会社に包括委任したことになる。もし株主が会社に「反対」したければ、委任状を切り取り、議決権行使書のみ郵送しなければならない。これを知っている株主はどれだけいるだろうか。

日本は競合的買収が少なく、このような問題は必ずしも明らかにならなかった。しかし、関西スーパーの株主のうち、知らない間に包括委任していた株主はどのくらいいたのであろうか。コメンタリー「最強の買収防衛策」で触れたように、買収防衛の法理は「株主の意思」を重視している。現在の株主総会が本当に「株主の意思」を反映しているのか、考えてみると恐ろしい。

フィデューシャリーアドバイザーズ株式会社 吉村一男

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